グラフェン
グラフェンは、現在世界で最も注目される物質の一つであり、グラフェン単層を初めて単離した研究者らは、2010年ノーベル物理学賞を受賞しました。
グラフェンは、蜂の巣格子点に炭素原子を配置した、厚さ1原子層の理想的な2次元の炭素物質です。グラフェンを円筒状に丸めると、後述するカーボンナノチューブとなります。
グラフェンに関する出版論文数は極めて多く、2014年以降は1年間に12,000本以上、すなわち50本以上の論文が毎日出版されています。
グラフェン中の電子は、質量ゼロの相対論的粒子として特徴づけられ、室温での量子ホール効果など特異な量子物性現象が数多く報告されています。
また、応用の観点からも、外的擾乱がなければ500,000 cm2/vsもの電子移動度を持ちうることが実験的に示されており、シリコンCMOSではできない領域の次世代LSI材料として非常に期待されています。
例えば、韓国Samsungグループはグラフェン透明導電膜を用いたスマートフォンを開発しており、米国IBMグループはSiC上グラフェンを用いて最高遮断周波数300GHzを持つ高周波トランジスタや集積回路の動作に成功しています。高周波トランジスタは、電波の送受信に使われるため、次世代の超高速通信技術への実装が期待されています。
その他にも、ノキアはグラフェンをセンサーに用いたデジタルカメラを開発、グラフェンを使ったテニスラケットやワイヤレスイヤフォンはすでに市販されています。
SiC熱分解法では、SiCをArガス雰囲気中1700℃程度で加熱することで、表面からSiのみを除去し、その際に残存したC原子が自発的にグラフェンを形成します。この手法では、ウェハースケールの単一方位グラフェンを、半絶縁性基板であるSiC上に直接形成することが可能です。我々は、このSiC上グラフェンにおける構造・物性・電子状態の解明と応用への検討を目標に研究を行っています。
SiC上グラフェンの詳細について、解説論文をいくつか出版していますので、よろしければ御覧ください。
1. エピタキシャルグラフェンの構造と物性(日本結晶学会誌)
2. SiC上グラフェンの成長と特徴(J. Phys. Soc. Jpn.誌)
3. SiC上エピタキシャルグラフェンのアドバンテージと将来展望(Phys. Chem. Chem. Phys.誌)
4. エピタキシャルグラフェンの構造的特徴と成長機構(J. Phys. D: Appl. Phys.誌)
5. SiC上グラフェンの成長機構(Semicond. Sci. Technol.誌)
SiC表面上グラフェンでは、高品質で方位の揃った単層グラフェンを、半絶縁性基板であるSiC上に直接成長させることが可能です。
上の図は、我々独自の手法によるグラフェン成長後の表面形態を、原子間力顕微鏡で撮影したものです。5mm角の基板表面は全てグラフェンで覆われています。グラフェン成長後でも、ステップ高さは1nm未満に抑えられ、原子レベルで平坦な表面形態を維持しています。
カーボンナノチューブ
当研究室では、SiC表面分解法により作成した高密度・高配向カーボンナノチューブ(CNT)膜を用いた研究を行っています。
炭素原子からなる円筒状の物質であるCNTは、その構造の特徴や優れた電気的・機械的特性を生かした様々な応用が期待されています。例えば、Liイオン電池や電解電子放出源、電界効果トランジスタなどへの実用化を目指した研究が世界中で盛んに行われています。
我々のグループでは、SiC結晶を真空中で加熱することにより、表面からSi原子が除去され、残ったC原子がCNTを形成するというSiC表面分解法を用いてCNTを作製し、その形成過程の解明や構造・特性の制御を目指しています。
(M. Kusunoki, et al., Appl. Phys. Lett. 71, 2620 (1997)., Appl. Phys. Lett. 77, 531 (2000)., Chem. Phys. Lett. 366, 458 (2002).)
SiC表面分解法で作製したCNTの特徴として、以下の4点が上げられます。
1. Zigzag型のCNTが超高密度・高配向に成長する。
2. CNTの長さの制御が可能である。
3. 基板であるSiCと原子レベルで強固に密着している。
4. 成長に触媒が不要である。
SiCを完全に分解して、CNTのみからなる膜を作ることも可能です。
このCNTのみからなる膜は、磁石に浮きます。これは、CNTが反磁性という声質を持つためです。反磁性物質は、磁場に対して逆方向に磁化するため、磁石
のN極を近づけるとその面がN曲となり、反発して浮上します。超伝導リニアモーターカーが浮くのと同じ原理です。